有限時間熱力学サイクルの分子運動論による解析

準静的なCarnotサイクルはどの熱力学の教科書にも載っている 物理を学んでいるものにとって馴染み深いものであるが、 準静的という条件をはずして有限時間でサイクルを回した場合の記述は、 基本的で重要な話題と思われるのにもかかわらず、 一般的な教科書ではあまり見かけない。

準静的という理想化は、非現実的であるだけでなく、 仕事率が0(無限の時間をかけて有限の仕事しか取り出せない)という点で、 好ましくない。

このような問題意識のもとで行われた研究は既にあって、 Curzon and Ahlborn Am.J.Phys. 43 (1975) 22 の論文では、ある程度一般的な条件のもとで、 仕事率が最大となるときの効率を理論的に導いているが、 その問題設定があまりわかりやすくなく、この論文の理論値を検証するような 実験も行われていない。

そこで、今回は、数値実験で検証可能なモデル系をより自然な問題設定で取り扱い、 この問題を再考してみたい。

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