準静的極限の破れた有限時間Carnot Cycleの解析

熱力学における最も重要な概念として熱機関がある。Carnotは現実に存 在する熱機関には原理的に 達成できる最大の効率 (Carnot効率)があることを準静的な熱機関のモデ ル(Carnot Cycle)を用いて 示した。Carnot効率は熱源の温度のみによって決まり作業物質や系の設定 の詳細に依存しないで決まる。 Carnot効率の発見は熱力学の形成にも多大な寄与をし、また実用的にも 工学的な熱機関の設計に一定 の指針を与えうる点で重要である。 しかし、Carnot Cycleはその構成上、無限の時間をかけて有限の仕事 をする熱機関のモデルであり、単位 時間あたりになした仕事である仕事率はゼロとなってしまう。現実的な熱 機関は有限の仕事率で動いており 準静的な極限を離れて動作している。このような有限の仕事率で動く熱機 関には何か法則があるのだろうか。 1975年にCurzonとAhlbornは有限時間で動く熱機関の特徴を取り入れた モデルを用いて、その熱機関が最大の 仕事率で動いている際の効率が熱源の温度のみによって決まるという注目 すべき結果を示した。 これは実用上も重要な問題であるにも関わらず、彼らの主張を確かめた 実験は現在のところないようである。

そこで今回のセミナーでは彼らの主張を最もシンプルなモデルである理 想気体のCarnot CycleをMD simulation を用いて"速く動かす"ことによって有限の仕事率を達成する熱機関を再現 し、彼らの議論を実際に検証することを試みる。 また気体分子運動論による解析も併せて行い、MDの結果と比較した議論 も紹介する予定である。

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