熱粒子浴で駆動する系の分子動力学シミュレーション

熱電効果とは熱エネルギーと電気エネルギーの間にある種の相関が見られるような現象のことである。 例えば電位差から熱流を発生させるPeltier効果や、逆に温度勾配から電流が流れるSeebeck効果などがある。 これらの現象は物理的な面白さに加え、冷蔵庫や発電機などへの応用面でも期待されている。

熱電効果の巨視的な導出[1]は過去に行われているが、微視的な記述についてはよく知られていない[2]。 つまり、熱力学的な現象論から出発して熱電効果の現象そのものを導くことはできるが、熱電効果に使われている物質の原子配置などからPeltier効果で流れる熱流やSeebeck効果の電流を具体的に計算できるような理論的枠組みはよく分かっていない。

我々は熱電効果の微視的な記述を得るために、温度勾配と化学ポテンシャル勾配が同時に存在するような(電荷を持たない)粒子系に注目した。 粒子に電荷が無い場合でも熱電効果と本質的に同じ現象が見られ、例えばPeltier効果は化学ポテンシャル勾配から熱流を発生させ、Seebeck効果は温度勾配から粒子流を発生させる。 さらにこれらの現象がOnsager係数と呼ばれる量によって記述できることに着目し、Onsager係数の微視的な性質を調べることで熱電効果の微視的な理解を目指す。

本研究では剛体球分子気体の両端に熱粒子浴を繋げた系についてMDシミュレーションを行い、 Onsager係数を数値測定した結果を報告する。 特に今回は3次元系について測定を行い、2次元の場合との比較を行う。

[1] H.B. Callen, Phys. Rev 72, 1349 (1948).
[2] G. Casati, C. Mejia-Monasterio, T. Prosen, Phys. Rev. Lett. 101, 016601 (2008).

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