分子動力学法による計算機実験において、実現される温度勾配が、長時間平均
として巨視的な定常状態を再現し、Fourier則を満たす事が知られているが、そ
の微視的な成立背景についての理解は充分になされていない。
このような問題意識のもと湯川氏らは、巨視的熱流を構成する微視的熱流自体
の分布を計算機実験により解析し、測定領域を温度勾配方向へ流れる巨視的熱流
が、測定領域からやや離れた局所部分の温度における、微視的熱流の平衡揺らぎ
[2]の寄与によること、特に実現確率が低く強度の強い微視的熱流の寄与による
ことを、多粒子系において突き止めた[1]。つまり、微視的熱流分布の裾の温度
勾配方向成分の非対称さが、巨視的熱流の生じる構造であり、局所平衡が成立し
ない非平衡状態である事がまさに、熱輸送現象の本質である。
今回、そのような熱輸送状態における熱流分布を見ることで、局所平衡の満た
されない非平衡状態の構造を見る。
[1] S.Yukawa et al. JPSJ 78,023002 (2009).
[2] T.Shimada et al. JPSJ 76,075001 (2007).
[3] S.Nose J.Chem.Phys. 81,511 (1984).