有限時間カルノーサイクルの非平衡統計力学的研究

近年、熱機関の最大仕事率時の効率を決定する理論的な研究が 注目を集めている。古くは、1975年にCurzonとAhlbornが提案した、Curzon-Ahlborn (CA)効率が知られているが[1]、このCA効率の普遍性をめぐって近年様々な研究が 行われている。 特に2005年にVan den Broeckが線形不可逆熱力学を用いて、CA効率は定常状態 で動く線形不可逆熱機関の最大仕事率時の効率の上限値であることを導いて 以来[2]、多くの理論的な研究が行われている。しかしながら、これら多くの研究 は一般性を指向するゆえに多くの仮定や現象論的な道具を用いてなされており、 より具体的でミクロな詳細が分かるモデルによる研究が望まれる。

そこで我々は、理論的な解析とともに数値実験(シミュレーション)が同時に 可能な、2次元理想気体の有限時間カルノーサイクルのモデルを提案し、その 最大仕事率時の効率を研究してきた[3-5]。特に温度差が小さい極限でのみCA効率が 成立することを初めてシミュレーションと理論解析で論証した[3]。 またこのカルノーサイクルのモデルがOnsager関係式で記述できることを指摘し、 温度差の小さな極限でCA効率が成立する物理的なメカニズムがそのOnsager係数 がタイトカップリング条件と呼ばれる特殊な条件が成立するためであることを 明らかにした[4]。 またSchmiedlとSeifertによって提案された、ブラウン運動する粒子を利用して 仕事を取り出すカルノーサイクルのモデル[6]のOnsager係数を計算し、カルノーサイクル のOnsager係数にはサイクルの動かし方の情報が含まれることを明らかにしてきた[5]。

今回の発表では我々が今まで発表した論文[3-5]の紹介を中心に行い、最後にVan den Broeckによる線系不可逆熱機関[2]、弱散逸カルノーサイクル[7]などの最近提案されて いるいくつかの理論を統合するより一般的な理論を報告する予定である。

[1] F. Curzon and B. Ahlborn, Am. J. Phys, 43, 22 (1975).
[2] C. Van den Broeck, Phys. Rev. Lett. 95, 190602 (2005).
[3] Y. Izumida and K. Okuda, EPL (Europhysics Letters), 83, 60003 (2008).
[4] Y. Izumida and K. Okuda, Phys. Rev. E 80, 021121 (2009).
[5] Y. Izumida and K. Okuda, Eur. Phys. J. B, 77, 499 (2010). 
[6] T. Schmiedl and U. Seifert, EPL (Europhysics Letters), 81, 20003 (2008).
[7] M. Esposito, R. Kawai, K. Lindenberg, and C. Van den Broeck, Phys. Rev. Lett. 105, 150603 (2010).

戻る