熱力学の等温過程において、特に熱平衡状態では粒子の速度分布はMaxwell-
Boltzmann 分布(以下M-B 分布)に収束することが知られている。では、もう一つ
の主要な過程である断熱過程の場合どうだろうか? 断熱過程では系に対し仕事を
介してエネルギーのやりとりを行っている。熱源による系のエネルギー変化とは
違い、仕事の場合はその与え方で系の振る舞いが大 きく変わる。
一般的な断熱過程における粒子の速度分布を導出するのは非常に難しい。力学的
な作用による仕事として、体積一定における「駆動容器」中の粒子の速 度分布
が普遍的性質をもつことが示された[1]。しかし、これにより得られた速度分布
には1 粒子近似が用いられており、粒子間相互作用が考慮されていない。
粒子間相互作用がある場合、駆動していない容器においてはM-B 分布に収束する
ことは周知の事実である。そこで、粒子間相互作用があり、かつ、「駆動容器」
中の場合、粒子の速度分布が[1] で得られた指数分布(以下、駆動分布と呼ぶ)
を示すのか、M-B 分布を示すのか、第3の分布が得られるのか。MD(Molecular
Dynamics) シミュレーションにより測定した。
[1] C. Jarzynski andW.J. Swiatecki Nucl. Phys.A 552, 1-9(1993)