結合振動子系における同期-エネルギー散逸関係式

ストークス流体中における微小生物の周期的運動, 例えば鞭毛を使った遊泳や繊毛波による
物質輸送などは生物の機能にとって重要な役割を果たしている. これら鞭毛・繊毛は流体力
学的相互作用によって互いに同期して働くことが知られており[1], そのエネルギー論的な理解
は重要である. こうした系は結合振動子系(非線形力学系)としてその同期のメカニズムの解
析がなされるが, 自律振動子そのものは外部からのエネルギー流入と環境へのエネルギー流
出のバランスによってそのリズムを維持する非平衡散逸系の典型例であり, 「同期のエネル
ギー論」の構築には非平衡熱統計力学的な観点も必要となる.

本セミナーでは, こうしたストークス流体中の結合振動子系への適用を念頭に, 位相方程式
で記述される円周軌道上の一般の結合振動子系のエネルギー散逸率と同期を結びつける関
係式について紹介する[2]. この関係式は弱結合で一般の位相差の結合関数に対して成立し,
結合関数の奇関数部分(保存力)及び偶関数部分(非保存力)のエネルギー散逸への寄与
がそれぞれ振動数同期及び位相同期の度合いと結びついていることを示す. またこの関係式
は振動子の自然振動数及び平均振動数という測定可能量で閉じた形をしており, 結合関数
の詳細を知らなくともエネルギー散逸率の見積もりを可能にするという利点がある. 具体例と
して流体力学的相互作用による同期条件が詳細に解析されており[3], 実験的実装もなされて
いる[4], 円周軌道上のストークス球系へ適用した結果も併せて紹介する.

[1] R. Golestanian, J. M. Yeomans, and N. Uchida, Soft Matter 7, 3074 (2011).
[2] Y. Izumida, H. Kori, and U. Seifert, arXiv:1602.07116.
[3] N. Uchida and R. Golestanian, Phys. Rev. Lett. 106, 058104 (2011).
[4] J. Kotar, L. Debono, N. Bruot, S. Box, D. Phillips, S. Simpson, S. Hanna, and P. Cicuta, Phys. Rev. Lett. 111, 228103 (2013).

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