非低温度差スターリングエンジンの非線形動力学解析

手のひらの温度と室温程度の温度差で回転運動する低温度差スターリングエンジンは,
持続可能社会のためのエネルギー・テクノロジーとして重要なテクノロジーの一つである[1,2].
このような低温度差スターリングエンジンは1980年代に提案・開発され, より小さな温度差を目指した改良がなされてきている[2].
こうした低温度差スターリングエンジンの回転運動がどのように温度差によって維持され, そして消失するのかは, 実用的にも基礎物理学としても重要な問いである.

一般にスターリングエンジンのモデリングでは, 作業物質である気体の時間発展とエンジンの可動部分である力学自由度
(ピストンの往復運動をエンジンの回転運動に変換するクランクなど)の時間発展の両方をカップルして解くことが必要となる[3].
低温度差スターリングエンジンに対してもそうしたモデリングは行われてきているが[4], 一般に複雑なものが多い.

本セミナーでは, 上記の問いに対して, 非線形力学にもとづく低温度差スターリングエンジンのミニマルモデルによってアプローチした研究[5]について紹介する.
本研究で考察するスターリングエンジンはγ型の, キネマティック・低温度差スターリングエンジンである[1]. 本モデルでは熱力学自由度(気体の温度)を断熱消去し,
力学自由度(クランク)の時間発展を, 温度差を駆動力とする非線形振り子として記述する. 得られた運動方程式の安定なリミットサイクル解がエンジンの回転解に, 安定固定点が静止解に対応する.
この系は2次元力学系であり, これより低次元の低温度差スターリングエンジンの力学系モデルは原理的に存在しないと考えられる. 運動方程式を解析することで,
温度差を分岐パラメタとする, ホモクリニック分岐[6]によって低温度差スターリングエンジンの回転解が消失する分岐シナリオを提案する.

[1] B. Kongtragool and S. Wongwises, Renewable and Sustainable Energy Reviews, 7, 131 (2003).
[2] J. R. Senft, An Introduction to Low Temperature Differential Stirling Engines, 4th ed. (Moriya Press, Wisconsin, 2000).
[3] M. Craun and B. Bamieh, J. Dyn. Sys., Meas., Control, 140, 041001 (2017).
[4] A. Robson, T. Grassie, and J. Kubie, Proc. IMechE, Part C: J. Mech. Eng. Sci., 221, 927 (2007).
[5] Y. Izumida, arXiv:1801.07190.
[6] S. H. Strogatz, “Nonlinear Dynamics and Chaos: With Applications to Physics, Biology, Chemistry, and Engineering” (Westview Press, Colorado, 2001).

戻る